少年期の壱 - 二 | 緋の幻影

少年期の壱 - 二

 「あなたがヨシユキ君?」
 「ハイ」
 子供の目から見ても結構いい女が訪ねてきた、歳の頃は37,8歳位か?よく解らなかった。
 「お父さんから何か聞いていない?」
 「え?」
 「今日からあなたのお母さんになるのよ、勝子というの、仲良くしましょうね」
 「は?僕にはお母さんがいますけど」
 父は翌年の1月に戻ってきたが家にいたのはほんの2,3日で何も言わずに又消えた。
 女が訪ねてきたのは父が消えてから1週間後の事であった。
 
  「小遣いいるか?」2週間後にいきなり帰ってきた父の第一声、人相の悪いおじさんたち
 が三人父の後ろで押し黙っている。
 「いらない・・・」
  「勝子と仲良くしてるか」
 「・・・・・」
 「まあいいか、このおじさんたちは家に暫くいるからな、顔を覚えておけ」

 父の職業はなんなのか、おぼろげながらもまともな仕事ではないとは気づいていた。
 近所の人たちから恐れと軽蔑が混ざった斜めの視線に私は嫌悪感と共に自分も普通
 では無いことを感じながらもなんとか周りに溶け込もうとしたが無駄だった。
 
 父の職業(職業というのか?)は右翼、なんとか党の幹部、私が知っている限りでは別荘への
 お勤め歴5回、実際はもっと多かっただろう。「義理と人情」イコール「はちゃめちゃな生活」
 こんな環境の中で私は人の道からずれていった、自分でも気づかない間に。
 
 父、勝子という女、2歳下の妹、私 のぎくしゃくした生活が1年ほど続いたがある日突然女が
 いなくなった、私はホットする気持ちとみょうな寂しさが同居する落ち着かない日がしばらく
 続いた、小学校5年の春だと思う。友達は一人もいなかった。

 待ちに待った運動会(実際は行きたくなかった)
 「おい、12時に弁当が届くからな、豪華だぞ」父のがなり声を背に玄関を出たが足が重かった。
 競技も進行し、ついにお昼の弁当が届いた、二段重ねのずしりとした重さになぜか涙がでた。
 同級生とその家族の話し声が拡声器で増幅されたように耳にワーンと響き、そして音が消えた。
 私は弁当を足で踏みつけ近くのゴミ箱に捨て運動場の隅にしゃがみこんだ。
 名前を呼ぶ声が聞こえたので顔を上げると同級生の秀ちゃんが手を振って近づいてきた。
 「ヨシユキ君 おにぎり食べない、お母さんが作りすぎたんだよ」
 「いいの」
 「食べなよ、ほら二つ」
 美味しかった、本当においしかった。梅干が入ったおにぎり二つ、記憶から消えない。



人気blogランキングへ