青年期の壱 - 四 | 緋の幻影

青年期の壱 - 四

事の発端は車の免許証であった。10月の始めに七北田の試験場で学科とコース内検定
(当時は路上検定は無かった)を受験し、2回落ちた後3回目で合格した。
免許証を手に入れると、さあ~車の運転がしたくなる、が、我家に車は無い。
ホンダのサービス工場に友人がいたので当時最先端のS600を構内限定ということで試乗させて
もらったが、ものの見事にコンクリート塀に激突し大破、私は軽傷ですんだが、車の弁償を
するはめになった。しかし、金が無い、ぐずぐずしているうちにホンダから親父に電話が入った。

「おまえ、とんでもない事をしたな!」

身体の安否よりも弁償金のことを先に言う親父に、自分が悪いとは承知の上でもさすがに
カチンときた。

「なにいってるんだ!自分こそでたらめな事ばかりやってきて」
「ふざけるんじゃねえ、俺のする事に文句があるのか、え~!」
「・・・・」
「いやなら出て行け!」
「わかった、出て行くよ、出て行きゃいいんだろう!」

売り言葉に買い言葉、ついに家を出る事になったのだが、先立つものは金、金、金。
親父が留守の間に荷物をまとめながら金目の物を探し回った。
ある日、普段は自分の部屋のタンスなどに鍵などかけない親父があたりに気を
配りながら施錠しているのを盗み見た。
次の日から親父がいなくなった、相変わらず行き先を告げず所在不明。
チャンスだとばかり、気になっていたタンスを開けようとしたが鍵が無い。
忘れ物が多い親父が鍵を持っていくはずが無い、きっと家の中に有る。
いつ帰ってくるかとハラハラしながら探したが無い、真夜中まで探したが無い 。
次の日、探す視点を変えてみた、もし、俺が親父なら何処に置くだろう?
ありました、見つけました。机の引き出しの奥に宝石箱のような小さな箱に何種類かの
鍵が入っていたが、タンスの鍵は特徴がありすぐわかった。
さっそくタンスの中をていねいに扱いながら、上から順々に探していくと下から2番目の
奥に風呂敷に包まれたズシリとした手応え、ドキドキしながら広げてみた。
なんと!! 札束、しかも帯封がされた12個のピン札、1,200万円の現金だ!
銀行強盗でもしたのか? それとも偽札か? それはないか!?
札束を見つめながら、私は呆然としていた。


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