青年期の壱 - 五 | 緋の幻影

青年期の壱 - 五

ろくなことをしてこなかった私だが、一つだけまともな部分があった。
それはお寺や仏像を見るのが好きで一日中お寺でぼうっとしていた日が結構あった。
心の中のなにかをうめようとしたのか欠けているものを無意識に求めていたのか、さだかではない。
といったところで例の金の話。
1,200万の金も目の前に置いて考えた。
どうせ家を出て行くんだ、この金もまともな金じゃないんだろう、よーしもらっておこう!
全額にするか、気持ち置いてゆくか?
結論、1,000万をバックに詰め込み、200万は元に戻した。
きりのいいところという身勝手な論理である。
そうと決まればさっそく行動、一番町でフォルクスワーゲンサンタナをレンタルし、一路目的地京都まで直行。
東北自動車道は部分部分で開通していたと記憶しているが岩槻でおり、一般道を走り、首都高速をわけも解らず通り抜け、東名を走っているうちにへたばり、浜名湖でおりて旅館に泊まった。
豪勢な鰻ずくしを女中さんにオーダーし、京都の都ホテルに1週間の連泊を予約した。
二度と親父の顔を見なくてすむという安心感と、これだけ金があればなんでもできるという興奮感が車の速度を段々とあげていった。